魔法の雪

 
 
 
 
『ねぇねぇ、寒くないですか~?』
『ご飯食べましたか~?』
『ちゃんとお布団で眠れましたか~?』
 
年度末は嫌い。お仕事が忙しくなるから、会社に泊まり込んでしまう彼に逢えないし、電話にも出てもらえない。
いっつもわたしから電話して、留守番電話に声を残すだけ。
わたしたち、本当にお付き合いしていますか?
わたしの彼氏さんは、どこで何をしていますか?
誰に聞いたらお返事が来るのかしら?
うう‥なんか空しい‥。
 
 
そろそろ桜の開花情報が流れてくる季節なのに、今夜はやけに冷える。
お部屋の中に居たって、吐く息が白くなるくらい。
寝る前に、ちょっとお部屋を暖めようとヒーターを入れてみる。
今夜のお月様はどうかなぁ~ってカーテンを開けてみると、いつの間にか雪が降りはじめていたみたい。
 
『うわぁ~~すごい!もう3月も終わるって言うのに、雪が降ってる!!』
 
わたしはなんだかうれしくなって、つい彼に電話をしてしまった。
「ただいま電話に出ることができません。ご用件の方は~。」
 
あ‥また彼に電話しちゃった…。
まだお仕事中だよね。いつもごめんね。
わたしはそっと電話を切って、お布団の中にスマホを隠した。
 
 
深夜になると雪足がいっそう強くなり、どんどんどんどん積もっていく。
明日の出勤も心配だけど、それよりも何よりも‥!
 
わたしはベランダに出て、あるものを作った。
そして写真を撮って、彼にメール。
 
『いつもわがままでごめんね。お仕事がひと段落付くまで、おとなしく待ってるよ。でもちゃんと、ご飯と睡眠はとってね!!いつでも応援してるよ!!お仕事ふぁ~いと!p(*^-^*)q』
 
 
いい加減、ホントにそろそろ寝ないとやばいかもって思う時間になったころ、いつもは鳴らないスマホが鳴った。
こ、こんな時間に電話?
わたしは小学校の頃の怪談話を思い出し、恐る恐るスマホを見る。
ええええ‥?彼から??
今まで彼から電話をもらったことなんて、なかったのに‥?
 
わたしはびっくりしてスマホを落としてしまった。
その拍子に彼の声が聞こえてくる。
 
『いったいこんな時間まで何してんだ!!』
 
やばい‥めちゃ怒ってるよ‥。
わたしは慌てて電話を拾って、とりあえずお返事してみる。
 
『ご、ごめんなさいなのです‥。あなたのことが心配で眠れないのです‥。』
 
わたしが言うか否や、彼が言葉を割って話し始める。
 
『いいか?夜更かししている悪い子は、あとでた~~~っぷりお仕置きだからな!俺の心配するより、自分の心配しとけよ!!』
 
そう言って電話を切られてしまった。
もちろん、わたしの体調を気遣っての言葉なのはわかっているけど、わたしの頭の中では、彼の言葉がリフレインする。
お仕置き‥お仕置き?お仕置きって何??
まさか、床磨き10時間とかダイエットのためのランニング2時間とか‥?
考えただけでそれはそれは恐ろしく‥ちゃんと寝ることにした。
 
お布団に入って、ふと思う。彼が元気そうでよかった。
あんまり無理しないでね。
疲れた時は、いつでも帰ってきていいからね。
お仕事ふぁ~~~いと!
 
 
 
季節外れに降る雪は、そっと優しさを運んでくれたのかもしれない。
そんな風に思えるほど、温かく幸せな気持ちにさせてくれた。
また逢えるかな‥?
ううん、きっとまた逢えるよね!
 
 
 

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初出:2019/3/1 23:55