僕はまだ・・

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あの空に
少しでも近づきたくて・・
手を伸ばしても、届かないから・・


あの星を
ひとつでも手に入れたくて・・
手を伸ばしても、掴めないから・・



僕はこのビルに来てしまう・・




下界の喧騒は遠く
時折吹き抜ける風が心地よい

しばし目を閉じ
温(ぬる)っこい風に身を委ねる・・



何も考えず・・
何も思わず・・



ただ 時が過ぎるのを待っている――





星々が囁きだすころ
僕がうとうとしはじめたころ・・

誰かが
呼ぶ声が聞こえてきた


『もう 帰ろう・・』




いや 僕はまだ
あの空へ行けていないよ
あの星を、掴めていない・・


今の僕は帰れない・・
まだ何も、掴めていない・・


もう少し ここにいさせてよ・・
もう少し ここにいたい――・・



下界では見ることのできない
下界では感じることのできない
この場所で・・

こんな僕でも
優しく包んでくれる
優しく見守ってくれる
この場所で・・


少しだけ・・
もう少しだけ 眠ってもいいかな・・?


僕はまだ 帰れないよ・・








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