幾重にも 重なるひかり またたいて 合わせる手と手 この身尽くまで‥ あの日みた満天の星の瞬きを、 今でも忘れることができません。 2022年3月11日 午前0:18 · 2022年3月11日
『ちょっと大きいかもしれないけど、このTシャツ、パジャマ代わりに使って。』 そう言って、友だちがロングTシャツを出してくれた。 わたしはうつむいたまま、うん、と小さくうなづいて受け取る。 土砂降りの雨の中、傘も差さずに彷徨い着いたのが彼女の家だ…
残業帰りのその日、ふと、いつもとは違う道を通ってみようと思った。 ちょっと薄暗くて人通りが少ない道だけど、もしかしたら近道かもしれない。 しばらく細道を歩いて行くと、三叉路に出た。自分が来た道を除くと、行く道は二つ。たぶん、右に行くとそのま…
扉の向こうに吹き込む風は、心の隙間を埋めるかのように、やさしく‥そして温かい。 その日玄関を開けると、たくさんの桜の花びらが吹き溜まりを作っていた。 あ、今年はお花見に行けなかったなぁ~と思いながら、花びらを両手いっぱいにすくってみる。 ふわ…
『ねぇねぇ、寒くないですか~?』 『ご飯食べましたか~?』 『ちゃんとお布団で眠れましたか~?』 年度末は嫌い。お仕事が忙しくなるから、会社に泊まり込んでしまう彼に逢えないし、電話にも出てもらえない。 いっつもわたしから電話して、留守番電話に…
「もし夜に道に迷ったら、夜空を見上げるんだ。きっとあの星が行き先を示してくれる。」 そう言ってあなたはわたしを抱き寄せて、北の夜空に輝く大きな星を指さした。 「もし寂しさに押しつぶされそうになったら、俺を思い出して。いつもここに居るし、いつ…
長雨が続く、梅雨真っ盛りのこの時期にしては珍しく、今朝は早くからお日様がお顔を見せてくれた。 わたしは、ここぞとばかりにお洗濯をして、お部屋のお掃除をして、それでもまだお昼には早いので、ちょっとお散歩をしてみることにした。 この街に越してき…
彩衣の音(ね) 皐月の空に 響かせて 花舞う風を 彼の地の人へ
花ひえぬ 桜月夜に ひとひらの 祈る想いを あなたの元へ‥
朝露の 雫に映る 薄紅は 幾多の想いに 時を重ねて‥
Deck the halls with boughs of holly Fa-la-la-la-la, la-la-la-la 'Tis the season to be jolly Fa-la-la-la-la, la-la-la-la Don we now our gay apparel Fa-la-la, la-la-la, la-la-la Troll the ancient Yule-tide carol Fa-la-la-la-la, la-la-la-la …
しとしとと降り続く雨の中、わたしは大きな箱を胸にそぉ~っと抱えて、 紫陽花ロードの丘の上に向かった。 そこには、大好きな彼のマンションがある。 彼とは今日、約束はできなかった。 ここのところ忙しかった彼とは、最近連絡が疎通になっていた。 なので…
ひととせの 想いのかけら 瞬いて 導くひかりに そっと手を伸べ‥
「やっぱりここに居たんだな。」 背後から突然声をかけられて振り向くと、目の前に缶のミルクティーが現れた。 その向こうには、わたしよりずっと年上の先輩の顔。 「あ、ありがとうございマス…。」 差し出されたミルクティーを手に取り、そっと胸元に引き寄…
秋晴れのその日、わたしは彼とコスモス畑へ来た。 「うわぁ、見て見て!すごい沢山あるよ~!」 目を輝かせて飛び跳ねるわたしを、彼は後ろからくすくすと笑いながら見ていた。 「おまえ、ホント子供みたいなやつだな~。」 「え~ひどい。これでも、立派な…
彼が出て行った。 餃子が食べたいと言う彼に、わたしは不慣れな包丁を握り、不恰好ながらも餃子もどきを作った。 いざ食べようとしたとき、不覚にもお酢がないことに気が付いた。 彼にその話をすると、彼は悲しい顔で出て行ってしまった。 「餃子にお酢がな…
「ねね、あんたの彼ってさぁ~ダサくない?」 突然友達からそんなことを言われた。わたしは驚いて、え?って訊き返した。 「いっつも頭ぼさぼさでさぁ~、服も着た切り雀だし。」 「そうそう、こないだなんか、靴下がびっこたっこだったの~!」 彼女はいか…
高校生の時、心理テストが流行っていた。 河を渡ってきた彼にひと言言うとしたら?とか、4種類の動物に、それぞれ身近な人を当てはめて、とか。 女子高だったわたしは、体育の時間はやりたい人がやれば的に、友達数人と壁際で話してた。 いろんな心理テスト…
台風一過の昼下がり、厚い雲から差し込むお日さまが嬉しくて、わたしは外へ出た。 この時期に香る金木犀も好き。 あちこちに植えられたお花を楽しみながら、雨の中、傘もささずに歩いていた。 しばらくすると、手を合わせながらおばあさんが近寄ってきた。 …
その日、早朝にメールで起こされた。 『あなたの24時間を私にください。』 そんな風に書かれたメールに、わたしは何かの間違いだろうと、二度寝の態勢に入った。 さらさらと心地よく触れる毛布の感触を肌に感じながらうとうととしかけたところに、突然ドアベ…
「もぉいいよぉ~。わかってるから。」 彼から謝罪のメールが来た。わたしはすかさず電話した。 今年は、中秋の名月とスーパームーンが連日楽しめるドキワクの9月だった。 もちろんわたしは、すすきとお団子と天体望遠鏡を用意して、彼の帰りを待っていた。 …
「大好きだったんだよね。」 彼女がぽつりと言った。わたしは「うん」と、小さくうなずいた。 「いつも笑顔だった。」 少し間をおいて、彼女がまたぽつりと言った。わたしも間をおいて、「うん」と言った。 彼女のお婆さんが亡くなった。わたしが知らせを聞…
「ね、あ~んして。」 わたしは彼の唇を見つめながら囁いた。 彼は微かに唇を動かしただけで、目を閉じたままだった。 まだ無理かな…。 少し冷めたおかゆさんの入ったレンゲを置いた。 わたしはきゅっと唇を結んで涙をこらえた。 彼が倒れた。 連日の猛暑で…
部屋の隅で、ひざを抱えて泣いていた。 顔を上げることができなかった。 読経の流れる中、誰かがわたしの腕をつかんだ。 『お線香、立ててあげて。』彼女はそう言った。 わたしは言われるままに祭壇の前に立ち、お線香を立てた。 遺影を見ることはできなかっ…
『わが社では、夏まつり期間中の浴衣着用を推奨します。』 『県外からお越しのお客様を、おもてなしの心でお迎えしましょう!』 突然そんな周知が社内に回った。 「ただでさえ暑いし忙しいのに、浴衣なんてねぇ~。」そんな声が聴こえてきた。 でもわたしは…
~今日は、曇りのち晴れ。夜には星が降るでしょう。~ 「ホントに!?」 わたしはバタバタとテレビに走り寄って、お天気お姉さんに訊いた。 あまりの形相にびっくりしたお姉さんは、身を引きながら苦笑いして応えてくれた。 ~うちの天文部の正確さは類を見…
~今日は、晴れ時々曇り。ところによってお日さまが降るでしょう。~ 「…え?」 わたしは、朝食を作りながら聞き流していたお天気予報に、思わず聞き返してしまった。 ~ですから、ところによってお日さまが降るのでご注意ください。~ お天気お姉さんが応え…
ずっと降り続いていた雨が、その日の朝、止んだ。 久々に顔を覗かせた太陽は眩しく、わたしは目を細めながら西の空を見た。 「あっちだよ。早くしないと消えちゃうよ!」 「え…?待って、そんなに速く走れないよ。」 友達が急に走り出した。わたしも慌てて走…
「そっちじゃないよ!」 突然彼がそう言った。 わたしは訳が分からず、足を止めて振り返った。 「え?」 「だから、そっちじゃないよ」 救急病院からの帰り道、始発に間に合いそうだったので、わたしは地下鉄の駅に向かっていた。 夜中にタクシーで来て、朝…
天の川にかかる橋はきっと、織姫様と彦星様の二人の想いだけではないのかもしれません。 二人を見守る沢山の人々の想いが折り重なって、鵲の姿を借りて実現したのかも。 そんな風に考えると、年に一度しか逢えない寂しさも哀しみも、乗り越えられると思いま…