2015-01-01から1年間の記事一覧

魔法のうさぎ

「やっぱりここに居たんだな。」 背後から突然声をかけられて振り向くと、目の前に缶のミルクティーが現れた。 その向こうには、わたしよりずっと年上の先輩の顔。 「あ、ありがとうございマス…。」 差し出されたミルクティーを手に取り、そっと胸元に引き寄…

魔法の花束

秋晴れのその日、わたしは彼とコスモス畑へ来た。 「うわぁ、見て見て!すごい沢山あるよ~!」 目を輝かせて飛び跳ねるわたしを、彼は後ろからくすくすと笑いながら見ていた。 「おまえ、ホント子供みたいなやつだな~。」 「え~ひどい。これでも、立派な…

魔法のお酢

彼が出て行った。 餃子が食べたいと言う彼に、わたしは不慣れな包丁を握り、不恰好ながらも餃子もどきを作った。 いざ食べようとしたとき、不覚にもお酢がないことに気が付いた。 彼にその話をすると、彼は悲しい顔で出て行ってしまった。 「餃子にお酢がな…

魔法のおパ○ツ

「ねね、あんたの彼ってさぁ~ダサくない?」 突然友達からそんなことを言われた。わたしは驚いて、え?って訊き返した。 「いっつも頭ぼさぼさでさぁ~、服も着た切り雀だし。」 「そうそう、こないだなんか、靴下がびっこたっこだったの~!」 彼女はいか…

魔法の宝石箱

高校生の時、心理テストが流行っていた。 河を渡ってきた彼にひと言言うとしたら?とか、4種類の動物に、それぞれ身近な人を当てはめて、とか。 女子高だったわたしは、体育の時間はやりたい人がやれば的に、友達数人と壁際で話してた。 いろんな心理テスト…

魔法の夢

台風一過の昼下がり、厚い雲から差し込むお日さまが嬉しくて、わたしは外へ出た。 この時期に香る金木犀も好き。 あちこちに植えられたお花を楽しみながら、雨の中、傘もささずに歩いていた。 しばらくすると、手を合わせながらおばあさんが近寄ってきた。 …

魔法の24時間

その日、早朝にメールで起こされた。 『あなたの24時間を私にください。』 そんな風に書かれたメールに、わたしは何かの間違いだろうと、二度寝の態勢に入った。 さらさらと心地よく触れる毛布の感触を肌に感じながらうとうととしかけたところに、突然ドアベ…

魔法のお団子

「もぉいいよぉ~。わかってるから。」 彼から謝罪のメールが来た。わたしはすかさず電話した。 今年は、中秋の名月とスーパームーンが連日楽しめるドキワクの9月だった。 もちろんわたしは、すすきとお団子と天体望遠鏡を用意して、彼の帰りを待っていた。 …

魔法のおはぎ

「大好きだったんだよね。」 彼女がぽつりと言った。わたしは「うん」と、小さくうなずいた。 「いつも笑顔だった。」 少し間をおいて、彼女がまたぽつりと言った。わたしも間をおいて、「うん」と言った。 彼女のお婆さんが亡くなった。わたしが知らせを聞…

魔法のお塩

「ね、あ~んして。」 わたしは彼の唇を見つめながら囁いた。 彼は微かに唇を動かしただけで、目を閉じたままだった。 まだ無理かな…。 少し冷めたおかゆさんの入ったレンゲを置いた。 わたしはきゅっと唇を結んで涙をこらえた。 彼が倒れた。 連日の猛暑で…

魔法のお線香

部屋の隅で、ひざを抱えて泣いていた。 顔を上げることができなかった。 読経の流れる中、誰かがわたしの腕をつかんだ。 『お線香、立ててあげて。』彼女はそう言った。 わたしは言われるままに祭壇の前に立ち、お線香を立てた。 遺影を見ることはできなかっ…

魔法の浴衣

『わが社では、夏まつり期間中の浴衣着用を推奨します。』 『県外からお越しのお客様を、おもてなしの心でお迎えしましょう!』 突然そんな周知が社内に回った。 「ただでさえ暑いし忙しいのに、浴衣なんてねぇ~。」そんな声が聴こえてきた。 でもわたしは…

魔法のお天気予報・2

~今日は、曇りのち晴れ。夜には星が降るでしょう。~ 「ホントに!?」 わたしはバタバタとテレビに走り寄って、お天気お姉さんに訊いた。 あまりの形相にびっくりしたお姉さんは、身を引きながら苦笑いして応えてくれた。 ~うちの天文部の正確さは類を見…

魔法のお天気予報・1

~今日は、晴れ時々曇り。ところによってお日さまが降るでしょう。~ 「…え?」 わたしは、朝食を作りながら聞き流していたお天気予報に、思わず聞き返してしまった。 ~ですから、ところによってお日さまが降るのでご注意ください。~ お天気お姉さんが応え…

魔法の虹

ずっと降り続いていた雨が、その日の朝、止んだ。 久々に顔を覗かせた太陽は眩しく、わたしは目を細めながら西の空を見た。 「あっちだよ。早くしないと消えちゃうよ!」 「え…?待って、そんなに速く走れないよ。」 友達が急に走り出した。わたしも慌てて走…

魔法の声

「そっちじゃないよ!」 突然彼がそう言った。 わたしは訳が分からず、足を止めて振り返った。 「え?」 「だから、そっちじゃないよ」 救急病院からの帰り道、始発に間に合いそうだったので、わたしは地下鉄の駅に向かっていた。 夜中にタクシーで来て、朝…

魔法の橋

天の川にかかる橋はきっと、織姫様と彦星様の二人の想いだけではないのかもしれません。 二人を見守る沢山の人々の想いが折り重なって、鵲の姿を借りて実現したのかも。 そんな風に考えると、年に一度しか逢えない寂しさも哀しみも、乗り越えられると思いま…

魔法の天の川

今日は雨。 あなたに逢える大切な日なのに、どうして雨なのかしら…。 溜息ひとつ。 晴れたら天体観察しようねって、約束してたの。 夕方には上がるらしいけど、そのあとの予報は曇りだしね。 朝からずっと、天気予報とにらめっこ。 ん~、このお天気予報…変…

魔法の短冊

年に一度、涙の河を乗り越えて、織姫様と彦星様は逢瀬を交わす。 愛し愛され心を通わせたふたりが、理不尽にも(いや、理由はあったけど)引き離された哀しいお話。 雨が降ったら河の水かさが増して、逢えなくなってしまうとか…。 ううん、今は雨が降っても…

魔法の吐息

しばらくぶりに、メールチェック。 なにせ、ほっとくと100件超えてることなんてざらにあるから。 いつも友達に怒られる。急ぎの用事もあったりするんだって。 そう言うものかな。便利だけど面倒くさいんだよね。 業者関係、メルマガ、迷惑メール。 そんな中…

魔法のカーテン

カチャカチャと、耳障りな音が聴こえてきた。 「あら、目が覚めた?」 って、なんだか体格よさそうな女の人の声。 わたしは目を開けてそちらを見ようとしたけど、体が動かない。 あれ…? 体だけではなく顔も動かせないことに気づいたのは、鼻に酸素チューブ…

魔法の猫バス

通りを歩いていると、数人の子供たちが息を切らせながらバタバタと走ってきた。 みんな一様に、きらきらと目を輝かせている。 「うわぁ~い。猫バス見たー!」 「猫バス猫バスー。」 「願い事が叶うんだー!やったぁー!」 ネコバス…?って、あのジブリの猫…

魔法の白い花

郊外の、すごく辺鄙なところにわたしのアパートがあります。 駅から随分離れているので、残業で遅くなったときなんかは、真っ暗な道を歩かなければなりません。 これ以上ないくらい神経を尖らせて、ちょっとの物音も逃さないように一歩一歩進みます。 これで…

魔法のぬいぐるみ

わたしの車の助手席には、大きなくまのぬいぐるみが鎮座している。 ちゃんとシートベルトを締めて、危険がないかを見ていてくれてるの。 夜のドライブなんかは、彼がいてくれて本当に助かる。 だって‥一応女の子だから、何があるかわからないでしょう? あ、…

魔法のおにぎり

友達からメールが来た。 『お~い!生きてるかぁ~?(笑)』 わたしは返信できなかった。 『生きてる』ってなんだろう…?そんな事を思っていた。 しばらく、外界から離れていた。 生きていくってことの意味が解らなかった。 生きる。 生きている。 生きてい…

魔法のオルゴール

「ねね、オルゴール置いたから、聴きに来てね!」 お友達から、そんな誘いを受けた。 彼女は、わたしがここに来てすぐにできた、長い付き合いのお友達。 一時は男性を巡って、ライバル宣言をされたこともあるんだけど。 もう覚えてないかな? でも、わたしに…

魔法のお月さま

わたしには、遠距離恋愛の彼がいる。 あんまり遠すぎて、年に1回逢えればいい方かな。 電話代も高くついちゃうから、コミュをとるのは専らネット回線を使ってになる。 メールにLINE、ライブチャット。 やっぱり声が聴きたくなるし、顔も見たくなるから、ライ…

魔法のチューリップ

ご近所の空き地に、チューリップが咲きそろいました。 むかし、独り暮らしのお婆さんが住んでいた場所。 お婆さんが亡くなった後、家は取り壊されたけど、花壇だけは残されたとか。 近くに住んでるおばさんが、毎日お手入れをしていました。 雨の日は傘をさ…

魔法のクレヨン

「はい、じゃあみんなで、お母さんのニッコリ笑顔を描きましょうね~。」 そんな先生の掛け声で、周りのみんなが一斉にお絵描きを始めた。 わたしはひとりうつむいたまま、クレヨンを持つことができなかった。 「海月ちゃんは、おばあちゃんを描きましょうね…

魔法の自転車

大好きなお兄ちゃんが引っ越してから、1ヶ月が経つ。 高校を卒業して、大学進学のために遠いところでひとり暮らしをはじめたのだ。 最初の頃のメールは即レスだったのに、最近は一日に一回しかくれなくなった。 わたしが寂しんぼだって知ってるくせに…。 ひ…