魔法のお月さま







わたしには、遠距離恋愛の彼がいる。
あんまり遠すぎて、年に1回逢えればいい方かな。
電話代も高くついちゃうから、コミュをとるのは専らネット回線を使ってになる。
メールにLINE、ライブチャット
やっぱり声が聴きたくなるし、顔も見たくなるから、ライブチャットが好き。
でも、時間を合わせてパソの前にいるのって、案外難しいのよね。
せめて月1でって思うんだけど、彼って面倒くさがりだから…。

いつもそばに居てくれるわけじゃないし、居てほしいときに居てくれるわけじゃない。
だけど、わたしが落ち込んでるときとかってわかっちゃうんだね。
とても哀しくて辛いことがあって、でも彼には気づかれないように笑顔で頑張ってたの。
なのにどうしてかな?突然電話が来て、「今、お月さま見える?」って訊かれたの。
わたしは、「え?…うん。」って答えた。本当は曇ってて見えなかったんだけど。
そしたら彼、すっごくうれしそうにはしゃいで、「そか、よかったぁ~。めっちゃ綺麗な月だよね!」って。
わたしは曇天の空を見上げて、一生懸命綺麗なお月さまを思い浮かべた。

「今見てる月を目に焼き付けて、そしたら目を閉じて。」

彼はそう言った。
わたしはまぁ、頭の中に思い浮かべた想像のお月さまだけど、目に焼き付けたつもりで目を閉じた。
そしたら急に後ろから、ふわぁっと暖かな風に包まれて、まるで、彼に後ろから抱きしめられているような感覚に襲われた。
え…?って、わたしはびっくりして、そのまま跪く格好になった。
あぁ…、声が出ない。目を開けることもできない。

『こうしていつも、一緒にいるよ。』

わたしの手から落ちたはずみで、携帯がスピーカーになっちゃったのかな。
彼の声が頭の中に響いてきた。

『無理するな。辛いときはちゃんと、辛いって言え。俺がいつでもこうして、お前を抱きしめてやるから。』

なん…で、わかったの…?

『おまえのことは、俺が一番よくわかってるよ。いつも一緒にいるんだから。』

彼の声が、わたしの体中を優しく包んでいった。
いつの間にかわたしの頬には、涙が伝っていた。
そのまましばらくの間、動けなかった。
彼の温かさが、カチカチに凍り付いていたわたしの心を融かしていくようだった。


心と心の繋がり…。
どんなに遠く離れていても、いつも一緒。
いつも見守っていてくれる。
そんな感覚を、あの時のお月さまが教えてくれたのかな。


Moon magic.

わたしのお月さま。