魔法の猫バス







通りを歩いていると、数人の子供たちが息を切らせながらバタバタと走ってきた。
みんな一様に、きらきらと目を輝かせている。

「うわぁ~い。猫バス見たー!」
「猫バス猫バスー。」
「願い事が叶うんだー!やったぁー!」

ネコバス…?って、あのジブリの猫バスの事?
それはなんとも現実離れしたお話で…。

「猫バスってどこにいたの?」

わたしは子供たちに訊いてみた。

「あっちの方に止まってるよー。」
「お姉ちゃんも見といでよ。」
「大切なお願い事が叶うんだよ!」

子供たちははしゃぎながら嬉しそうに教えてくれた。
わたしもなんだかワクワクしてきた。
あの猫バスがいるの?本当に?

高鳴る胸を押さえつつ、子供たちが教えてくれた方へ行ってみた。
住宅街に入って、教えてもらったお宅を覗いてみた。
すると、奥の駐車場に一台のキャンピングカーが止まっていた。
白い車の屋根のトップには、確かに猫バスがいた。
正確には、大きめの猫バスのシールが貼られていたのだが。

外装も、猫バスを思い浮かべるような緑のラインが入り、内装もフカフカで気持ちよさそうな毛皮が張られている。
フロントにはたくさんの猫バスが置かれていた。

これが猫バスかぁ~。
想像していたのとは違ったけれど、確かにうれしいかもしれない。
よそ様のお宅だと言うことも忘れて、敷地内をうろうろしていると、そのおうちのおばさんがいぶかしげに出てきた。

「どうされましたか?」

わたしは急に現実に引き戻され、慌てて手を振った。

「あ、怪しいものではありません。こちらに猫バスがいると聞いて、拝見しに来ました。あの、すみません。」

後ずさりながら逃げようとしたが、おばさんが話をつづけた。


「あぁ、そうですか。それでしたらゆっくりご覧になっていってください。もしなんだったら、中も見ていかれますか?」

わたしはびっくりした。
中も…って、え?乗ってもいいってこと?

「え?あの、中も拝見させていただけるんですか?」

「ええ、いいですよ。実はこの車、もうすぐなくなっちゃうんです。」

おばさんはちょっと哀しげに言った。
衝撃的なお話に、わたしは動揺してしまった。

「なくなる…って、どうされたんですか?」

訊いていいことなのか迷ったが、この素敵な車がなくなるのはちょっと哀しいと思った。

「主人がね、この車のオーナーなんです。でも、昨年体調を崩しましてね。」

「そうなんですか。」

「ええ。歳も歳なんで、他の方に譲ることにしたんです。」

おばさんはそう言いながら車のドアを開けて、わたしを中へ入れてくれた。
車の中は外見を裏切らず、ほとんどの場所がふかふかの毛皮張りとなっていた。
そのままごろごろって転がったら気持ちよさそう。
至る所に猫バスの置物があって、さらに絵が貼られていた。
本当に好きなんだな…。愛情が伝わってきた。

「わたしがね、トトロの映画を見てすごく気に入って。猫バスが特にね。」

おばさんが、幸せそうにそう言った。

「あんまり嬉しそうに猫バスのこと言うもんだから、主人がこの車を買ってくれたの。」

あぁ、そうか。この車は、ご主人からおばさんへの愛情の現れなんだね。
だからこんなに温かくて、居心地がいいんだね。

それからおばさんは、この車でご主人といろんなところに行ったお話を聴かせてくれた。
幸せそうに語るおばさんを見ていたら、なんだかわたしも幸せな気持ちになった。
すごく素敵だな。
わたしもそんな風に人生を送れたらいいな。


わたしはその夜、夢を見た。
あの猫バス仕様のキャンピングカーの夢だ。
きらきら輝く白い靄の中を、猫バスがゆっくりと歩いている。
その周りを取り囲むように、なぜか猫たちが二足歩行で、蕗の葉を両手で持ちながら上下に振り上げ踊っている。
確か、トトロがどんぐりにおまじないしているときの様な感じ?
わたしもその中に混ざって、踊りながら歌った。
幸せ色の光の中で…。


にゃんにゃん、ねこねこ、ねこばすにゃん。
にゃんにゃん、ねこねこ、ねこばすにゃん。
にゃんにゃん、ねこねこ..
ねこねこにゃん…。