魔法の虹







ずっと降り続いていた雨が、その日の朝、止んだ。
久々に顔を覗かせた太陽は眩しく、わたしは目を細めながら西の空を見た。


「あっちだよ。早くしないと消えちゃうよ!」

「え…?待って、そんなに速く走れないよ。」

友達が急に走り出した。わたしも慌てて走ったけど、うまく足を運べない。
転びそうになりながら、それでも置いていかれたくなくて、彼女を追いかけた。
彼女は、運動会でいつも3位以内に入るほどの駿足だ。
どんくさいわたしが追いつくはずもない。

いつも仲良しのわたし達は、ほぼ毎日のように遊んでいた。
雨の日も、風の日も、雪の日も。もちろん晴れた日も。
同い年なのに、いつもお姉さん役の彼女。
本当のお姉さんだったらよかったのに…なんて思っていた。

その日もいつもの如くふらふらと遊び歩いていた。
田舎のことなので、遊ぶといっても丘の上や川原だったりするんだけど。
小雨の降る中、傘も差さずに遊んでいると、彼女が突然東の空を指差して叫んだ。

「虹だ!ほら、すごく大きな虹が出てる!」

「あ、本当だぁ~!うわぁ、すごく綺麗ねぇ~。」

はっきりくっきり大きく架かった虹を見て、わたしはうっとり眺めていた。
すると、急に彼女が走りだした。

「あっちだよ。早くしないと消えちゃうよ!」

そう、彼女は虹の根元へ行こうとしていた。
住宅地の向こうの山まで続いている、その虹の根元まで。

わたしも走った。虹の根元がどうなっているのか知りたかった。
まさか小人さん妖精さんが、えいこらえいこら、バケツに入った虹の素を扇いでいるとは思わないけど。
でもそこには、何か神秘的なものがあるのかもしれないと思った。

随分走った。普通だったらバスで20-30分くらい揺られて来るような場所まで来た。
あれだけくっきり出ていた虹は、霞の残像のようにうっすらと影を残すだけになっていた。
さっきまであった根元はどこにも見当たらず、かすかに空の向こうに彩りが見えるだけだった。

「ごめん、わたしが足遅いから…。」

わたしはハァハァと息を切らせながら彼女に謝った。
彼女も乱れた息を整えながら

「違うよ。気づくのがちょっと遅かったんだよ。」
「今度はもっと早く見つけて追いかけようね。」

そう言ってくれた。


あの頃は、無邪気に、思いのままに走ることができた。
いつも彼女に手を引いてもらってばかりだったけど、それが嬉しかった。
そんな彼女と、離れ離れになるなんて考えてもいなかった。
夏の思い出。
彼女は今、どこで何をしているのかな…。

ずっと降り続いていた雨が、その日の朝、止んだ。
久々に顔を覗かせた太陽は眩しく、わたしは目を細めながら西の空を見た。
そこには、あの時と同じような、くっきりとした大きな虹が出ていた。
そしてその虹と手をつなぐように、小さな虹がかすかに並んでいた…。









*7月16日が『虹の日』でしたので^^