魔法のお団子







「もぉいいよぉ~。わかってるから。」

彼から謝罪のメールが来た。わたしはすかさず電話した。
今年は、中秋の名月スーパームーンが連日楽しめるドキワクの9月だった。
もちろんわたしは、すすきとお団子と天体望遠鏡を用意して、彼の帰りを待っていた。
でも…。
彼はお仕事で泊まり込みになってしまった。事故があったんだって。
わたしはベランダに出てお月さまを見上げながら、彼に電話をした。
彼は疲れ切った様子で、ひたすらわたしに謝っている。
もう…。そんな言葉が聴きたいわけじゃないのに。

「ねぇ、そこからお月さま見える?」

電話口から、カラカラと窓を開ける音が聴こえた。

「うん、綺麗に見えてるよ。」

「そっか、よかった。」
「今、わたしたち、同じお月さまを見てるんだよね。」
「世界中の沢山の人たちも見てるだろうけど、でもその中にはあなたもいて、わたしもいる。」
「想いを繋ぐ光の螺旋は、あなたとわたし、ふたりだけのものだよね。」

「あはは、また"秘技ロマンチスト光線"発動だな!」
「うん、ちゃんとこうして繋がってるよ。」
「いつもさみしいを思いさせてごめん。」

「もぉ~!また謝ったぁ…。」
「わたしは大丈夫だから。今、あなたの隣に知らない女が居なければね!」

「ば…!おま…、俺の事信じられないのか!?」

「ふふっ。慌ててるの可愛い。」
「大丈夫よ。あなたがどれだけ不器用かって、わたしが一番知ってるから~。」

「俺、浮気できないじゃねぇか…。」

ひとしきり笑いあった後、彼は仕事に戻っていった。
ちゃんと仮眠くらい取れるといいんだけど…。
ごはん、食べれてるかな…?
いっつもわたしの事ばかりで、自分の事ほったらかし。
心配だけど、彼はそう言うこと絶対に言わない人だから…。

わたしはお団子をひとつつまみながら、お月さまの光を浴びて微睡んだ。
あんまり気持ち良くてうとうと…。
しばらくすると、ほっぺに柔らかい感触を覚えた。
するするしてて気持ちいい。
あまりの心地よさに顔を押し付けようとすると、急にずしっと重みを感じた。
慌てて目を開ける。
…と。

そこにはわたしよりも大きな顔の、うさぎ…のぬいぐるみがあった。
『あった』と言うより、圧し掛かってるかも。。

「う…おもっ…。」

手で払いのけようとすると、うさぎはさらにぎゅうってしがみついてくる。

『嘘つき。』

頭の中に、声が響いてきた。

『本当は寂しいくせに。なんで言わないんだよ。』

え…?
何言ってるの?
わたし、寂しくなんか…。

『だぁ~からダメなんだよ。』
『寂しいなら寂しいって、逢いたいなら逢いたいって言っとけ。』
『いっつも強がってばっかだと、他の女に取られるぞ。』

う…そんなことないもん。
大丈夫だもん。彼は大丈夫…だもん。

そんな事を言い争っている間に、うさぎがぱくぱくとお団子を食べ始めた。

『ほぉ~、お前にしては上出来じゃないか。』

このうさぎ、ひと言余計だし。

『心配なら行ってくればいいじゃん。』
『やばいもん見たくないならやめとけばいいし。』

だぁかぁらぁ~!違うって言ってるのに!!
…でも、女よりも彼の体の方が心配よね。
責任感の強い彼だから、きっと無理してるんだろうなぁ~。

そう思っている間に、お団子がどんどんなくなっていく。

あぁ~うさぎ!全部食べちゃダメ!!

わたしは慌ててうさぎからお団子のお皿を取り返した。
お団子だけタッパに詰める。
バッグを持って靴を履きかけて…、ふと手を止めた。
お仕事場は男性にとって"戦場"だって聞いたことがある。
そんなところにわたしが行くのは、やっぱりダメだよね。

『いいんじゃないのぉ~。』
『今日だけは、蒼月が見せた幻覚ってことで、許してやるよ。』

なんて態度のでかいうさぎ…。
あんたも幻覚ってことにしてあげるわよ!
そう思いながらわたしは、その言葉を受けて玄関を飛び出した。

待っててね。すぐに行くから!
元気の出るお団子、あなたに届けるから…!