魔法の橋







天の川にかかる橋はきっと、織姫様と彦星様の二人の想いだけではないのかもしれません。
二人を見守る沢山の人々の想いが折り重なって、鵲の姿を借りて実現したのかも。
そんな風に考えると、年に一度しか逢えない寂しさも哀しみも、乗り越えられると思いませんか?

物語は、こんな締め括りをしていました。
七夕を語るお話は沢山あります。
その中でもわたしのお気に入りのお話。
夜空に輝く星のひとつひとつには、この世に生きるひとりひとりの想いが宿っているように思います。
眩いくらいに輝く星はもちろん、肉眼では到底観ることのできない星にだって、ちゃんと想いがあるのかもしれません。
小さな星の、小さな心に宿った、小さな想い。
そんな想いに気づけるようになれたら、本当に素敵なことですね。


わたしは今日も空を見上げた。
遠く離れたあなたと繋がれる唯一は、この空だと思っているから。
いつかわたしが天に召されるときが来たのなら、奇跡の橋がかかるのかしら?
あなたはちゃんと、向こう岸から来てくれるのかしら…?



「せんせー、ひこぼしはウワキしないのー?」

突然そんな声が聴こえてきた。
わたしは急に現実に呼び戻され、自分が今、子供たちにお話を読み聴かせていたことを思い出した。

「えぇぇ…!?」

とても5歳児とは思えない過激な発言に、一瞬理解できなかったが、その言葉の意味を捉えると、椅子を倒して飛び退いてしまった。

「だってオトコってウワキするものでしょう?」
「うちのおとなりのゴシュジンが、タンシンフニンでウワキしてるって、ママがいってたもん。」

「なにいってんだよ!さいきんはオンナだってウワキするんだぞ!」

男の子が反撃してきた。

「だからなによ?オトコがウワキするんなら、オンナだってウワキするじゃない!!」

「オンナがウワキなんかしちゃだめだ!!」

「なんでオトコがよくてオンナはだめなのよ!?おかしいじゃない!!」

「だめなものはだめなんだ!じゃあオマエはウワキするのか!?」

「じゃあアンタはウワキするの!?」

今にも取っ組み合いが始まりそうな勢いで、二人がにらみ合っている。
なんだか収拾がつかなくなってきた。アタマイタイ…。

「ハイハイ、二人ともそこまでー!」

わたしは手をポンポンと叩いて、二人を座らせた。
この二人、とても仲がいいんだけど、別々の小学校への進学が決まってるのよね。
小さな子供にはどうすることもできない事だし、それをわかっているからこそ、些細なことでも言い争ってしまう。
きっと小さな胸の中で、すごくすごく心を痛めてるんだろうなぁと思う。

「そうだね。離れ離れになると寂しいって思うかもしれないね。」

わたしはゆっくりと、言葉を選びながら話し始めた。

「それまでずっと一緒に居たのに、急に離れてしまったら、哀しみで胸がいっぱいになるかもしれない。」
「でもだからと言って、その時身近にいる人でいいやって思えると思う?」
「先生はそうは思わないんだよね。」
「どんなに遠く離れていても、朝も昼も夜も、この空には星が輝いているでしょう?」
「とても目に見えない星だとしても、その星を想うとき、二人の心は繋がっているんだと思うのよね。」
ポラリスでもいいし、ヴィーナスでもいい。もちろんお月さまもね。」
「そう思えば、寂しくもないし哀しくもないでしょう?」

ふと気が付くと、子供たちがぽか~んと口を開けてこちらを見ていた。
あ、あれ?やっちゃったかなぁ~…。
わたしは子供相手だったことを再び思い出し、内心焦った。
でもとりあえず、この場を何とかしないと…と思い、話を続ける。

「さ、さっきの織姫様と彦星様のお話を覚えているかしら?」
「二人を繋ぐために現れた鵲さんは、二人を応援している人たちの想いが伝わって、橋になったんだよ。」
「だからきっと、二人の心がしっかりと繋がっていれば、魔法の橋がかかると思うよ。」

これでどうだ!?
わたしは心の中で、綺麗にまとまった~と自画自賛していた。
そんなわたしに子供たちは容赦なかった。

「せんせーってロマンチックだなー。」
「だからおよめのモライテがないのよねー。」
「いいトシして、ユメみすぎなんだよー。」

タハハ…。最近の子供たちって現実的すぎ。
でもこんな子供たちも、大きくなったら切ない想いをして、大人になっていくんだろうなぁ~って思ったら、ほほえましいね。

魔法の橋。
わたしもちょっとだけ、お裾分けしてもらってもいいかな?
なんて思いながら、やっぱり空を見上げた。