魔法の短冊







年に一度、涙の河を乗り越えて、織姫様と彦星様は逢瀬を交わす。
愛し愛され心を通わせたふたりが、理不尽にも(いや、理由はあったけど)引き離された哀しいお話。
雨が降ったら河の水かさが増して、逢えなくなってしまうとか…。
ううん、今は雨が降ってもカササギさんが橋を作って、ふたりをちゃんと逢わせてくれるんだって。
よかったね。毎年雨で逢えなかったら、おばあちゃんになっちゃうものね。


「てかさぁ~、愛し合ってるんだったら、ずっとべたべたしてたっていいじゃない?」
「片時だって離れたくないって思うでしょう?」
「せめて一か月くらい引っ付いてられたらいいのにね!」

そんな言葉が聴こえてきた。
この時期のプラネタリウムは、カップルがいっぱいいる。
女一人で来るのは、ちょっと痛かったかなぁ~。
まぁ、独り身だから仕方がないけど。
いつか一緒に観に来てくれる人ができたらいいな。
そんな事を思いながら、わたしは天文台を後にした。

帰り道、天文専門店を覗いてみると、小さな笹の葉セットが売っていた。
『自分だけのお願い事をしてみませんか?』って言うキャッチがついていた。
植木鉢に小さな笹の葉が挿してあって、その脇には、小さな織姫様と彦星様が手を繋いでいる。
星形の短冊と飾りも数個ついていた。
へぇ~、可愛いかも。
わたしはピンクの短冊のついてるセットを一つ買った。
たまにはこういうのもいいよね。

おうちに帰って、早速短冊を取り出した。
毎年書くことは決まってるんだけど。
でも、今年はなんだかふと手が止まった。
ちょっとだけ…希望を持ったら、やっぱりそれは、罪になるのかしら…。


カーテンを開けて窓の外を見ると、梅雨の晴れ間に満天の星空が輝いていた。
この空の向こうの、遠く遠く、さらに遠いところに、織姫様と彦星様がいるのかな…。
なんて事を思いながら、夜が更けるまで星空の下で微睡んでいた。
夜風がまだ冷たい。
それでも満天の星のささやきは、とても心地よかった。
何も書けなかったピンクの短冊は、なぜか薄い紫色に変化していた。
織姫様と彦星様の心が、映し出されているのかな?
だってその下では、手を繋いでいたはずの織姫様と彦星様が…♡



想いを繋ぐ、カササギ様へ。
離れ離れの恋人たちに、優しい時間を分けてください。
一年分の涙の河は、ひと夜の逢瀬で癒されますから。
希望と言う名の橋を、渡してくださいませ…。






あれ?ちょっと待って…!
河=大河?
川=小川?
それじゃあダメじゃん!
一年分の涙が小川じゃ、織姫様は薄情に思えるし、でも大河になったら彦星様が溺れちゃうかも!?
こういう場合はどうしたらいいの???
ん~、そうだ!

『彦星様、あなたの織姫様はいっぱい泣いたけど、でも、あなたとの幸せな日々を想うことで、笑顔になれました。』
『なので、この"かわ"は大河に見えますが、実は小川です。』
『どうぞ安心して渡ってあげてください。』

よし、これでOKかな?
さぁ~て、わたしも短冊にお願い事を書かなくちゃ!
わたしの彦星様は、ちゃんと願いを叶えてくれるかな?



五色の短冊、ピンク色
両手で包んで、想いを込める
夜空に向かって、笹の葉揺れて
奇跡よ起これ、七夕Magic!!