魔法の花束







秋晴れのその日、わたしは彼とコスモス畑へ来た。

「うわぁ、見て見て!すごい沢山あるよ~!」

目を輝かせて飛び跳ねるわたしを、彼は後ろからくすくすと笑いながら見ていた。

「おまえ、ホント子供みたいなやつだな~。」

「え~ひどい。これでも、立派な大人ですよぉ~!」
「だってわたし、あなたの愛を充分に受けられますもの。」

そんな掛け合いをしながら、畑の真ん中まで来た。
あまりにたくさん生えているせいか、花の成長はまちまちだった。
そんな中で、なぜかとても気になる咲き方をしているコスモスがあった。
そのコスモスを見ていると、彼と出逢った頃を思い出した。

「これは…、あなたと出逢った頃のわたしみたい…。」

わたしはあの頃の、哀しく切ない気持ちを思い出した。

そして次に見遣ったコスモスは、彼が話してくれたお話を思い出した。
心を痛めた女性が、自分の想い出を売ってしまおうとするお話。
わたしはそのお話を何回も読み返し、いっぱい泣いた。
わたしもその時、同じ状態だったから…。

それから次に見つけたコスモスでは、彼に告白した時を思い出した。
わたしは彼とお話しできたことでテンションMAXで、自分で言ってしまった言葉に自分で驚いて固まってしまったっけ。
でも彼は、そんなわたしを優しくフォローしてくれた。
あの時、あなたもテンション上がってた?
「お嫁さんのようにしていてください。」って、まだ付き合ってもいないのに言ってくれたよね。
ホントびっくりしたんだから。

それから、あなたとはじめてメールしたとき、はじめて声を聴いたとき。
あなたの事を少しづつ知って、そのたびごとのコスモスの花が、わたしの腕の中にいっぱいになった。
彼はコスモスの中に横になって、静かにわたしの話を聴いていた。

しばらくして、両手いっぱいに抱えたコスモスを彼のところへ持って行った。

「ね、あなたとの想い出、こんなにいっぱいになったよ!」

そう言って彼に花束を渡す。
彼はその花束をそっと横に置き、わたしに軽くキスをした。

「じゃあ、ちょっと待ってて。」

そう言って彼は、今度は自分でコスモスを摘みはじめた。

「これは、こないだお前とけんかした時。」
「こっちは仲直りしたとき。」
「そしてこっちは、俺がお前の両親に逢うとき。」

…え?

「これは俺がお前のお父さんに殴られるとき。」
「これは式場に見学に行くとき。」
「こっちは友達に招待状を出すとき。」

やだ…。何言ってるの…?

「これは式で誓いのキスをしたとき。」
「これは二人の新居に引っ越したとき。」
「そしてこれは…。」

「や…、待って!」
「なに…言って、る…の……?」

わたしは目に浮かぶ涙をそのままに、震える声で彼に訊いた。
彼は、両手いっぱいになった花束をわたしに差し出し、はにかみながら言った。

「俺と…。いや。私と、結婚してください。」

「な…。なななななななななな…何言ってるのぉ~…。」

わたしは一気に体が熱くなり、彼にもらった花束に顔をうずめた。
あまりに突然の出来事で、涙が止まらなかった。
そんなわたしを彼は、花束ごとぎゅう~って抱きしめてくれた。

「思い出の花束はとても大事だけど、これからは、未来の花束を一緒に作っていきたい。」


今年も畑には、コスモスの花がきれいに咲きました。