魔法の宝石箱







高校生の時、心理テストが流行っていた。
河を渡ってきた彼にひと言言うとしたら?とか、4種類の動物に、それぞれ身近な人を当てはめて、とか。
女子高だったわたしは、体育の時間はやりたい人がやれば的に、友達数人と壁際で話してた。
いろんな心理テストがある中で、わたしのお気に入りは『宝石箱』。

 『目の前に宝石箱があります。その中には何が入ってる?』

実に簡単な質問。でも、すごくすごく深い内容なんだよね。
高校生の時のわたしの答えは、『沢山の小さな宝石がぎっしり詰まってるけど、その中にひとつだけ、すごくすごく大きな宝石が輝いてる。』だった。



彼と付き合うようになって数か月。
ふと思い出したその心理テストを、わたしは彼に試してみたくなった。
そして彼に、宝石箱の質問をした。
困ったような表情を見せた彼は、答えてはくれなかった。




「ねぇ、このくらいでどうかなぁ?」

わたしは望遠鏡をのぞきながら、彼に話しかけた。
彼はキャンプ用のテーブルを組み立てながら、こちらへ寄ってくる。
わたしの背後から、どれどれ?と望遠鏡を覗く彼。
わたしは彼の顔の近さに慌てて目をそらした。

「ん~、ちょっと右にずらして…。ん、この位置でいいかも。」
「ほら。」

そう言って、わたしの肩を引き寄せて覗かせてくれた。

「あ、本当だぁ~!」

彼が合わせてくれた望遠鏡は、見事にまん丸お月さまを捉えていた。
子供のようにはしゃぐわたしに、後ろで苦笑いしている彼がいた。

今日は皆既月食―。
ゆっくりゆっくり消えていくお月さまに、ふたりは釘づけだった。
アールレディをカップに注ぎ、寄り添いながら温まった。
言葉はいらない。
時折望遠鏡を覗いては、もともとの形を再認識しながら、静かに、ゆっくりと流れる時間を楽しんだ。
そして、次第に小さくなったお月さまがその姿を完全に隠したとき、彼が天上を指さし囁いた。

「ほら、見てごらん。」

わたしは消えたお月さまから目を離し、彼の指さす天上を見た。

「ぅわぁ……。」

言葉を失った。
そこに見えたのは、無数の星が、今までに見たことのないくらいの輝きを放ち、わたしたちに迫ってくる姿だった。
そう、それは、小さな宝石を沢山たくさん集めて、大きな宝石箱に詰めたような感じ。

「無限の宝石箱みたい…。」

わたしが呟くと、彼がわたしの肩を抱きながら、耳元で囁いた。

「この間の答え、これからわかるよ。」

え…?わたしの訊き返しに彼は答えず、また静かな時間が流れ始めた。
お月さまはしばらく顔を隠した後、徐々に徐々に現れてきた。
その姿がまた、最初の神々しさを取り戻したころ、先ほど無限の輝きを放っていた星たちが陰に隠れた。
その時彼が、すくっと立ち上がった。
ほけぇ~っと空に見とれているわたしに手を差し伸べる。
わたしは当たり前のように彼の手を取り、立ち上がった。

「あれが答え。」

彼はそう言って、夜空に光り輝くお月さまを指さした。

「…???」

わたしは意味が解らず彼を見る。
彼は苦笑いしながら(照れながら?)口を開いた。

「この空には、輝く星が無数にある。」
「その中で、いちばん大きくて一番輝いているのが…お前だ。」
「それが、こないだの質問の答え。」

あ…、宝石箱の心理テスト!
彼の答えは、わたしと一緒だったんだ!
わたしは彼にぎゅぅ~と抱き付いて、顔をうずめた。